想いを叶える親愛信託 76
- oikaway4
- 8月26日
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第76回「信託財産は差し押さえできない?」

差し押さえは免れない
信託財産にすれば差し押さえを免れると誤解している人がいます。確かに信託財産そのものは差し押さえることができません。
信託法23条には、「信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分をすることができない」とあります。そのため、信託財産そのものは差し押さえできません。
つまり、自分が所有権で持っている物件を信託財産にすれば、差し押さえされないので安心!とはならないのです。
信託法で決められていることは、至極あたりまえのこととなります。所有権だったものを信託財産にすると、名義と権利に分けられ、その財産の持ち主は受益者となります。受託者は名義を持っていますが、信託財産の持ち主ではありません。受託者が受益権を持っていないケースがほとんどですし、受益者が複数いる場合も考えられます。
ということは、信託財産そのものを差し押さえられてしまうと、関係ない人が巻き込まれてしまうことになります。そのため、信託財産そのものは差し押さえできません。しかし、受益権は差し押さえることが可能となります。
信託財産は差し押さえできませんが、受益権は差し押さえられるため、債務を負う人は返済を免れることはできません。そして債権者が泣き寝入りすることも、決してありません。財産制のない信託財産そのものの差し押さえはできないのですが、財産である受益権は差し押さえが可能となります。
まず受託者と相談を
例を使って説明しましょう。
AさんがOさんから6000万円お金を借りています。AさんはC土地を持っていて、そのC土地を駐車場として貸していて毎月地代が35万円入ってきます。C土地そのものの価値は7000万~8000万円です。
Aさんは高齢のため子供のBさんを受託者にして、信託契約を結びました。しかしAさんはお金を返すことができなくなりました。駐車場代を全て借金の返済に充てていればよかったのですが、他にお金を使ってしまっていて借金返済もできなくなってしまったのです。
この場合、OさんがC土地を抵当にいれていれば、C土地が信託財産になっていてもAさんは問題なく抵当権を実行することができます。
しかし、抵当権を実行する前に、Bさんに事情を話してすぐに売却してもらった方が、高い金額で売却できる可能性もあります。普通に売却したら7000万円で売却できるのに、競売にかけると5000万円になってしまう恐れがあるためです。
その場合、Oさんは借金を全額回収できないことになってしまいます。残った1000万円の債務を、Bさんが相続する可能性がでてきます。
7000万円で通常売却できれば6000万円をOさんに返して、1000万円が手元に残ります。信託不動産が金銭に変わっただけなので、1000万円は信託財産として受託者であるBさんが引き続き管理することになります。そのため、Aさんが無駄遣いすることはできません。
そのように受託者であるBさんと相談して、売却に応じてもらえれば、債権をしっかり回収することができます。もし応じてくれないようであれば、受益権を差し押さえることが可能です。そうすると地代はOさんに入ってきます。
この計画を実行すると、返済まで10年以上かかりますが、利息も含めて回収することが可能になります。もしくは受益者として受託者を変更して、Oさんが自分で管理することもできます。また信託を終了させれば、Oさんが所有者になります。
いろいろな事情やケースがあると思いますが、どちらにしてもAさんは信託したから借金を返さなくていいということにはなりません。
もしもOさんが受益者を他の人にしていたら、借金を返さないための意図的な策を講じたと見なされてしまします。それは詐害信託となり、信託が無効になってしまうでしょう。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1138号 2025年7月16日より 引用)
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