想いを叶える親愛信託 75
- oikaway4
- 4 日前
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第75回「遺言ではできない受益者連続の必要性」

孫子の代まで意思を伝える
遺言代用信託と言われる信託のスキームがあります。これは、信託で遺言のようなことができるものです。
金融機関が扱っている「遺言信託」は商品で、信託の仕組みは使われていませんので、混同してはいけません。遺言は亡くなってから効力が発生します。ということは、自分が生きている間の対策にはならないのです。自分が亡くなった後、持っていた財産を誰に遺すのかを指定する仕組みが遺言です。遺言は残された人が困ったり、もめないようにするための対策です。
では信託はどうでしょうか?遺言代用信託と呼ばれるように、信託でも、自分が亡くなった後に自分の財産を誰に遺すのかを指定できます。
ほかにも、信託を活用すると、さまざまな状況への対応が可能です。まず、自分が生きている間の対策ができます。信託が認知症対策として使われる理由は、自分が高齢になったとき、信託を使うことで対策ができるからです。さらに遺言と同じく、自分が亡くなった後に財産を引き継ぐ人を指定することができます。それだけでなく、その後の人たちも指定することができます。「人たち」と書いたのは、何代先までも指定しておくことができるためです。
ただし、信託法の91条に「当該信託がされた時から30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する」とあるため、信託が開始された時から30年経った時はその次の受益者の指定までが受益者連続の効力が及ぶ部分になります。長期間にわたりたくさん指定することはできますが、それが現実化するのは30年後の次の人まです。そのあとの受益者連続は当事者で決めなおす必要があるでしょう。
30年ごとに見直しが必要
これはよく考えると当然で、永遠にご先祖様が決めたとおりに従わないというのは現実的ではありません。時代が立てば世の中の状況なども変わるため、子孫は見直してくださいということだと思います。
しかし、限界があるから意味がない訳ではありません。信託の良いところは、信託財産は受託者が管理してくれるため、判断能力がない人でも受益権が持てるというところです。遺言で判断能力のない子供に財産を遺すと、その子が遺言を書けないせいで、財産が承継できないケースも出てきます。そういったとき、親愛信託が役に立ちます。受託者は判断能力がしっかりしている身内を指定して、自分の後の受益者は判断能力のない子供へ、そのあとは自分の身内へ、というように受益者を指定しておけば良いのです。こういう対策で、財産を自分の大切な人で承継していくことができます。
当初の受益者が長生きした場合の対応も挙げておきます。現代は医学が発達し、寿命が延びています。死亡終了の形にした場合、信託では、終了した時に財産を所有権として持つ「帰属権利者」を指定します。例えば当初の受益者が98歳で亡くなったときに子を帰属権利者にした際、98歳の子が76歳で所有権として財産を取得することになります。ただ、その子も信託が必要な年になっています。そうするとわざわざ信託を終了させる必要はなく、そのまま子に信託を継続させた方が合理的です。
費用圧縮のメリット
どのタイミングで次の受益者に受益権が承継されるかわからないし、将来は何が起こるかわかりません。信託は将来の変化に対応できるようにしておくべきでしょう。終了時期も決まった特定の日で終わるのではなく、自分たちが選んだ日に終わらせるようにしておく必要があると思います。
さらに、不動産の場合、受益者の変更の登録免許税は1不動産につき1000円となります。もちろん、相続税はかかりますが、所有権で承継した場合は、相続税と登録免許税が相続の度にかかります。受益者連続にしておけば、信託が終了するまでは、受益者の死亡による受益者変更の登録免許税が1000円になるというメリットもあります。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1136号 2025年6月16日より 引用)
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