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注目されるESG融資

 企業によるESG(環境・社会・ガバナンス)貢献活動が、資金調達の面で「実利」を生みつつある。以前ならこうした活動は、企業のイメージアップを狙う広告宣伝にすぎないと見られることも多かった。しかし金融業界で最近、社会貢献に取り組む企業を融資で優遇する動きが急速に広がっている。

 住宅・不動産業界でも事例が続々と誕生。道外の先行事例から、ESG金融の拡大を見ていく。


ESG融資の波 道内住宅・不動産業にも

 近年目立つのはこんな融資だ。

 融資契約前に、事業会社がどんなESG貢献に取り組んでどんな成果を出すのか目標を設定。目標が妥当であるという第三者機関の判断を得た上で融資を実行する。一定期間後、達成できたかどうか検証し、できていれば金利低減などの優遇が受けられる。


 「サステナビリティ・リンク・ローン」(SLL)と呼ばれる仕組みで、2020年3月に環境省がガイドラインを策定した。SDGs意識の高まりを背景に、長く続けられる経済活動を支援する趣旨で多くの金融機関が導入し始めている。


 環境省の「グリーンファイナンスポータル」サイトによれば、国内初のSLLが組成されたのは2019年11月。それから今年2月上旬までの2年強で67件が実現した。このうち住宅・不動産分野は11件(ゼネコン、土木業者、不動産投資法人は除く)と2割近くを占める。


 サイト内の案件リストでまず目に付くのが上場企業だ。組成時期が早い順に三菱地所、野村不動産ホールディングス、サンヨーホームズ、いちご、三井不動産。同サイトでの掲載は確認できなかったが、平和不動産も今年2月末に組成を発表している。この多くは、自社所有ビルなどから出る温室効果ガス削減量などを目標に掲げ、金利の低減を受ける。


 上場企業はもともと環境分野の行動計画を自主的に立てていたケースが多く、こうした余裕のない中小企業がすぐに追随するのは難しい。だが昨年10月に組成を発表したサンヨーホームズは、通常業務とも言えるZEH建築を目標にした。


 組成したのは滋賀銀行を幹事とする地銀7行の連合体。戸建住宅の建築件数のうちZEH住宅割合を2022年3月期に76%、23年3月期に77%とする目標を定めた。調達額は15億円。毎年点検し、到達していればその年の金利が下がり、未達なら当初設定金利のままとなる。


 地方の非上場企業でもSLLが増えてきた。大阪・吹田に本社を置き外壁工事を主力とするT’STILEは、昨年1月、廃棄物削減とZEH建築戸数を目標に5000万円を調達。「吉野材」で知られる奈良・下市町にある木材業、吉銘は同9月、集成材への国産材使用割合アップを掲げて融資を受けた。割合は20年実績が19・8%だったところ、30年に32%を目指す。直近では2月28日付で、長野市のハウスメーカー、テクノホーム長野がZEH建築比率を目標に地元の八十二銀行から融資を受けることを発表した。


 SLLの件数は昨年を通して大幅に増えている。前述した住宅・不動産関係11件のうち9件は21年に出てきた案件で、1~6月が3件、7月以降が6件という内訳だ。今年はこれを上回るペースで増えていて、さらに浸透することが予想される。


道内は昨年12月に第1号

環境以外で目標設定


 昨年12月22日、道内企業のSLL第1号が誕生した。


 北洋銀行が札幌市の自動車整備業、リューツーに対して組成した案件で、外国人社員の比率を現在の12%から2030年に22%まで高める目標を定めた。融資額や契約金利は非公開だが、毎年の目標値をクリアすれば契約金利を1割下げるとしている。


 環境分野以外の目標設定はこれまでの事例には少ない。だが外国人雇用は、働き手が減っている自動車整備業界の存続につながり、なおかつその社員の帰国後の生活安定も期待できるなど社会貢献の意義がある。妥当性を判断する第三者機関の格付投資情報センターからも高い評価を得たという。


 北洋銀行法人推進部の鈴木智也調査役は「これまでESG融資と言えば環境貢献のイメージが強かったが、実際にはESGのS、社会への貢献を評価する融資もできる。どの企業、業界にも可能性がある」と話す。北洋銀に限らず道内のさまざまな金融機関が動き出すことも予想され、いずれ住宅・不動産業界にも波及しそうだ。


(第1071号 2022年3月16日発行 1面より)

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