オンライン上の仮想世界「メタバース」が道内の建設現場で普及しつつある。
バーチャル空間に複数人が集まって、CADデータで制作した建物を確認したり、工事のシミレーションができることなどで注目。サービスを提供するマイクロフィッシュ(本社・札幌)によると、ゼネコンや工務店、リース業者などで本格採用を控える。新たな営業・業務ツールとして期待を集めている。
ホーム企画センター(本社・札幌)は、住宅販売業務での導入に向けて検証を開始した。
「コロナ禍で、予約がないとモデルハウスの見学はできないが、メタバースなら遠隔からでもすぐに体験できる」ことが主な理由だ。仮想空間で作った家のパースに入り、顧客に商品を説明する。同社の担当者は「時間さえ合えば複数の担当者と同じ空間で、手軽に集まれる。現実では難しいことがメタバースで可能になる」と期待を寄せる。
モデルハウスの案内に加え、間取りや壁紙の選択といった、顧客などとの打ち合わせツールとして着目。近く、試験運用を実施する予定で、最初は住宅ブランド「炭の家」や基礎から家が建つまでの説明に活用する。ノウハウを蓄積した後、本格的に導入する考えだ。
ホーム企画センターの担当者は「今後、翻訳機能も備われば、仮想空間で海外の人とも会話が成り立って取引できる。遅かれ早かれ業務で使われるレベルに達するだろう」と展望する。
マイクロフィッシュは、21年10月からサービスを開始した。メタバースの基礎を開発した米企業から、販売委託を受けている。
メタバースは、自らのアバター(分身)を通して活動するインターネット上の仮想空間。利用には仮想現実(VR)技術を搭載した専用ゴーグルを推奨するが、スマートフォンやパソコンでも体感できる。
仮想空間では現実と同じ寸法の建物や道路、景観を再現する。専用のコントローラーを使えば、自身のアバターが物をつかんだり、離したりすることも可能だ。画像や文字も残せる。マイクロフィッシュの河本英男制作マネージャーは「工事現場を想定してシミュレーションすれば施工前に精査ができる」とみている。
一から企業がメタバースのシステムを作ると数億円の費用が掛かるという。さらに、仮想空間内に物体などを制作するには、専門的な知識が必要な上、外部委託すれば数十万、数百万円が相場だ。同社は、相手からCADをはじめとするデータを作ってもらうことなどでコストを削減。月額10万円前後でサービスを提供する。すでに、住宅以外で医療施設の建設現場やイベント関連の設営でも、作業導線、業務工程の確認などで採用する企業が出ている。
河本マネージャーは「VRの今後のキラーコンテンツになり得るのが建築分野だと思う。都市計画にも寄与できるデジタル空間の建築屋を目指したい」と話している。
(第1073号 2022年4月16日発行 9面より)
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