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【ウェルネストホーム】ドイツ式超高性能住宅、道内で拡大

 愛知県に本拠を置く住宅メーカー、ウェルネストホーム(長久手市)が、北海道での事業を本格化する。同社は10年前、世界基準での高性能な家づくりを掲げて創業。高価格帯ながら日本各地で棟数を伸ばすベンチャーだ。道内にも加盟工務店を持つほか、参画するニセコ町のまちづくり事業が今春着工したことで業界外にも社名が知られつつある。勢いの背景にある商品力や営業力が、本道でも強さを発揮するか。


共鳴の輪、全国に加盟工務店


 「高気密・高断熱なら北海道の家が一番」とは、もはや言えないかもしれない。


 ウェルネストホーム創業者の早田宏徳代表取締役がお手本とするのは、日本より厳しい基準を満たすドイツの住宅だ。2007年の初視察から40回を超える渡航で技術を学び、日本市場にアレンジして提供している。


 基本は太陽光や風など自然を活用するパッシブデザイン。資材には天然乾燥の木材、自社で開発したトリプルガラス樹脂サッシなどを使う。UA値は0.2台、C値も平均0.2と国内最高水準を誇る。


創業者の早田宏徳氏

 もっとも、こうした数値だけなら同クラスの道内メーカーも存在する。早田氏が「北海道の業者さんもご存じないことが多い」と明かすのが、湿度の調整技術だ。室内壁は紙クロスに漆喰塗装を施すのが標準。吸放湿性に優れ、本道の冬場でも一定の湿度を保てる。


 こだわりの分、価格は高くなる。最近は資材高騰もあり、床面積100㎡前後なら上物のみで平均4000万円近い。顧客の3割は医師をはじめとする医療関係者が占め、大手企業勤務者もやはり3割程度いるという。


 これまでに全国で900棟を完成させた。社員数は65人で、東名阪と香川の4拠点で営業や設計業務にあたる。創業当初からインターネットのビデオ会議システムを活用し、遠隔地の顧客にも対応してきた。施工は地域フランチャイジーを含む地元工務店が担当する。


 加盟工務店で「ウェルネストエンジニアリング」と呼ぶ全国ネットワークをつくる制度を最近設けた。職人が本部による約20時間の研修を受け、定期チェックに合格し続けなければ資格を失う。加盟社は現在33社。この多くが、先代から家業を継いだ若い経営者の工務店という。業界の現状に危機感を持ち、超高性能の家づくりに将来を見いだす集団だ。


 本道では16年に七飯町の順工務店が加盟し、函館圏で約20棟を建てた。札幌のイネスホームも数年前に加わり、ニセコ事業で連携中だ。早田氏は「地域1社などの限定はない。やる気のある方と仕事をしたい」と話す。


経営は二人三脚、3年後に道内年30棟


 早田氏、そして17年から代表取締役社長を務める芝山さゆり氏はともに1970年代生まれで住宅メーカーの経営者としては若い。


 早田氏は左官業出身で、住宅会社勤務を経てコンサルタントとして独立した。企業顧問と並行してドイツの住宅事情や技術を伝える講演活動で全国を飛び回り、業界では知られた存在になった。ニセコとの縁もこうした人脈が元となっている。


 会合で芝山氏と知り合ったのは08年。4年後、芝山氏の後押しを受ける形で、自ら家を建築するための会社「低燃費住宅」を設立した。17年、営業力強化を狙って当時専務の芝山氏を社長に引き上げ、事実上のツートップ体制にする。


芝山さゆり社長

 芝山氏は音楽教師、専業主婦を経て起業した経歴の持ち主だ。専門は人材教育などで「建築技術については何もわからなかった」と自身を振り返るが、そこに住む家族の視点から会社のあり方を考えるのが役目になった。安心感を持ってもらうため契約客とは必ず携帯電話番号を交換し、何かあれば社長自らやりとりする。


 広報・宣伝役も社長の大事な仕事だ。会社は広告費を使わない方針で、その代わりに取材やイベント登壇などに積極的に応じて自分たちの考えをアピールする。地方を拠点に活躍する女性経営者として、近年は全国的なシンポジウムなどに呼ばれる機会も増えた。社会・経済への感度が高い人々に会社の存在が知られ、それが顧客層である高所得者とも一定の重なりを見せる。


 2人ともネットを積極活用する。ユーチューブの企業公式チャンネルではほとんど毎週、どちらかが登場する動画がアップされる。視聴登録者は現在2万3600人で、一番人気の動画は再生回数31万回を超す。


 人が高気密高断熱についてネットで調べるほど、同社発の情報に触れる確率が上がる。こうして見込み客から、自分の居住地でも建てられるのかと連絡が入る。まだ1棟もない札幌や旭川からもすでに多くの問い合わせを受けている。


 来るのは顧客だけではない。七飯の順工務店が仲間入りしたのは、家業を継いだ高見慎社長がユーチューブで早田代表を知ったことだったという。


 新エリア進出にあたって課題となるのは、工務店の現場ノウハウ蓄積だ。同社の家は工程が多く、過去には1棟施工して音を上げた業者もあった。工期は長ければ半年かかる場合もあり、棟数をこなしにくい。早田氏は「2、3棟やれば慣れてかなりスピードアップできる」と話す。


 全国ベースでは来年、累計1000棟の大台に乗ることが確実だ。道内では札幌など施工実績のない地域を開拓し、3年後には年間30棟を実現したい考えだ。道内の高所得層マーケットで、新たな強者がのろしを上げた。


(第1076号 2022年6月16日発行 1面より)

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