第5回「相続税対策だけでない信託を使った相続対策の考え方」
財産を渡す人と継ぐ人の意思疎通が大切
相続のことを考えるときに「相続税」と「相続」を一緒にしてはいけません。相続税の計算は亡くなった方の財産が少なければ相続税が少なくなり、多ければ相続税も多くなるということです。当たり前のことですが「相続税対策」と「相続対策」は同じではありません。
計算上資産価値を減らすことは対策になると思いますが、本当に財産を減らしては意味がありません。ただ単に相続税を減らすための行為ではなく、将来に有効な方法を取らないといけません。その有効な行為を取るときに信託が活躍します。
相続というのは人の死とともにやってきます。もちろん早めに対策することに越したことはありませんが、現実に遠い未来のために早いうちから対策をするのはなかなか難しく、どうしても所有者本人が高齢になってからの対策が多くなると思います。信託を活用して、高齢な所有者から、後継者に名義を移すことで、高齢の方がなかなか理解できないようなスキームでも後継者に名義が移っているので、後継者が理解をすれば、スムーズに行うことができます。
まず、「相続」対策は相続が起こった時にもめないように、トラブルが起きないようにしておかないといけません。財産を持っている方の意思をきちんと確認して、それを実現するにはどうすればよいかを考えます。
そして、必要であれば、そのことを相続人や関係者にきちんと事前に伝えることも必要になります。相続税を少なくするためだけの対策ではなく、財産を持っている人の気持ちを大切にして、どう承継していくのかを引継ぐ人も含めて、きちんと考える必要があるのです。渡す人と継ぐ人が、お互いの意見を交換して、きちんと意思の疎通ができていることが大切なのです。
信託財産にすると相続手続きの必要がありません。受益権を持っている方がお亡くなりになると、信託契約で決めた人に受益権が移ります。そのため、相続が起こった時の煩わしい手続きがいらなくなりますので、相続人の中に判断能力がない人がいても、音信不通の人がいても問題ありません。相続は、ある日突然やってきます。その時に慌てなくていいように、悲しみの中、面倒な手続きを少しでも減らすためにも信託を活用することが有効になってきます。
信託を活用することで気持ちも財産も承継
もう一つは「相続税」対策です。もちろん財産があれば税金はきちんと納めるべきです。
しかし、金銭ではなく財産の多くが不動産などの場合には、税金を納めるのも大変になります。相続税対策はいろいろあると思いますが、時間がかかるケースやそのスキームそのものが複雑なものもあります。それを所有者である高齢の方にご説明しても、なかなか理解を得られなかったり、納得してもらえないケースも多いと思います。
その点、信託を活用していると、理解してもらうのは名義人である受託者ですので、高齢の被相続人に説明するよりも理解が早いです。所有者である被相続人は「自分が払うわけではないので、子供たちが何とかするだろう」と言って結局どうにもならずに、不動産を売却せざるを得ないこともありますが、受託者は何とかしておかないと困る立場の人が多いため、相続税対策に対しても真剣に取り組みます。対策が長期にわたる場合には、途中で被相続人が認知症になることを心配することなくスキームを進めていくことができます。
また、財産そのものを動かすのではなく、受益権を贈与したり、売買したりすることが可能です。名義は受託者の名義になっているため、スキームを実行する過程で共有になったり、不動産を分筆したりする必要がなくなります。受益者の変更登記ですむので、登記手続きも簡単です。
信託を活用することで、気持ちも財産そのものもきちんと承継することができるのです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1018号 2019年8月16日発行 より 引用)
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