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想いを叶える親愛信託 65

第65回「留分相当分の受益権の渡し方」



遺留分侵害額請求に備え受益権を渡しておく


 遺留分侵害額請求権とは民法で決められているもので、これが信託法の受益権に及ぶのかどうかというのは、まだはっきり分からないところではあります。今後、いろんな判決が下され、判例が出て、どのような対応になるのか決まっていくと思いますが、それを待っているといつになるか分かりません。


 相続人でありながら自分の財産を遺したくないというには理由があるはずです。何か目的があり、その目的達成のために信託行為をして、その結果、相続人に財産が残らないことになったというのは、本来であれば元々の財産の持ち主である被相続人が自分の財産を自由にすることであり問題ないはずなのですが、現状ではまだ裁判所がどう判断するか分かりません。


 何年も音信不通の相続人の場合、信託財産にしておいて、もしも請求されたら金銭で支払いができるように準備しておくというのが一番良い方法ではないかと思います。遺言と違い、相続ではないので、信託法には通知義務はありません。身近にいれば亡くなったことを知らないなどということはあり得ません。亡くなったことを知らないということは、それだけ被相続人の人生に関わってないということになり、被相続人の財産形成に関わってないのであれば財産をもらう権利はないと思われますが、遺言だとそうはいきません。


 信託だと亡くなったことを知らないままということはあり得ます。とはいえ、財産が不動産や株式などで金銭がほとんどない場合は、万が一遺留分侵害額請求をされて認められてしまうと支払いができない可能性もあります。そのようなときの対策として、自分の財産を信託財産にしておき、受益権を遺留分の割合で渡しておくということができます。


受託者管理の下、財産を自由にさせない


 例えば、配偶者と長男と長女が二人いて、長男は親不孝者で、長女は親孝行だったとします。自分の財産を信託財産として、自分が亡くなった後の受益権は、配偶者を二次受益者にしておきます。その後の三次受益者に子である長男と長女を指定し、長男が亡くなった後は四次受益者を長女の子である孫にして、同じく長女が亡くなった後の四次受益者も長女の子である孫にしておき、最終的には親孝行の長女の子である孫に承継されるようにしておきます。受益権として財産を渡しているので、遺留分侵害はしておらず、遺留分侵害額請求はできません。信託している財産に関しては受託者が管理するので、長女の自由にも長男の自由にもなりません。信託財産が収益不動産の場合だと家賃の半分が長男にいくことになります。自社株式だと権利は持っていますが、配当などがない限り実質的に金銭などがもらえるわけではありません。遺留分対策として、不動産をあえて法人に持たせてすべて株に変え信託財産にすれば、長男は使えない財産を持つことになります。

 自宅など収益を生まない財産に関しても同じことが言えます。最終的に売却した時には利益を得られますが、売却するのは四次受益者になってから売却するというようにしておくことができます。

 

 このように親愛信託を活用すると、元々の持ち主の思った通りに財産の承継をすることが可能になります。





監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1119号 2024年8月1・16日合併号より 引用)







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