top of page

想いを叶える親愛信託 60

第60回「信託でしかできないこと」



所有権とは異なる受益権での財産承継のメリット


 信託の提案をすると、「信託は必要なの?」と言われることがあります。そう言われる方こそ信託でなければ望みや問題解決が叶わない場合が多いのですが、疑問を抱く原因は自分の置かれている現状がきちんと把握できていないことと信託の本当の活用方法が分かっていないということだと思います。


 例えば相続人が一人だけで、相続人に財産が引き継がれた後の対策の必要がなく、相続税もかからないので対策をする必要がなく、被相続人になる方の老後の認知症対策も必要がないという場合には信託は必要ないと思います。


 逆を言えば、相続の手続きが困難もしくは複雑なことが予想される場合には信託を活用すべきで、信託でないと解決できないケースがほとんどです。信託は認知症対策というイメージが強いですが、相続の対策になるということにもっと注目すべきです。


 所有権のまま相続財産になると、相続人全員の印鑑もしくは遺言が必要になったり、遺言があっても戸籍を集めて相続人全員に通知する必要があります。この財産を元気なうちに信託財産にしておき、次の受益者を決めておくと当初の受益者が亡くなったら、当初受益者が亡くなったことの証明ができる死亡証明書などがあれば、指定されている次の受益者に受益権は承継されます。相続人の協力がなくても手続きは進められます。


 ここで、「遺留分は?」となりますが、遺留分侵害額を請求されることはあります。しかしこれは信託財産にしていたから請求されるわけではなく、そのまま相続財産にしていても同じことです。ただ、信託財産の場合、自分が相続人であることを知らない人にわざわざ知らせる必要はありませんし、疎遠で亡くなったことも知らないような人に連絡することもありません。わざわざトラブルを招くような行為を避けることが親愛信託だとできるのです。信託にしかできないことの一つは「相続の手続きが必要ない」ということです。


相続手続きは不要だが相続税の対象にはなる


 ここで誤解してはいけないのが、信託財産の受益権はみなし相続財産となりますので、相続税の対象にはなるということです。そして、受益者は何代先(ただし、信託法で信託行為から30年経った後の受益者までという規定はあります)までも指定しておくことができるので、自分の思っている人に引き継いでいってほしいという場合には親愛信託を活用しないとできません。


 所有権のままですと価値の高い不動産が一つあるけれど相続人が複数いるというような場合には売却して金銭で分けるか、不動産を相続した人が相続していない人に金銭を払うなどの手当てが必要になりますが、信託財産の受益権ですと複数の人で持つことができます。


 管理や処分権限などは受託者が持っているので、共有のように不動産の賃貸や売買などの手続きが複雑になることもありません。大切な財産を複数の人で持っておきたいという場合も親愛信託でないと解決できません。そして、所有権だと必ず所有者本人が手続きしないといけないので、未成年の子供やすでに認知症になっている人など自分で契約行為ができない人に財産を渡すことは問題がありますが、信託財産の契約行為は受託者がするので、そのような人たちに受益権として渡すことができます。そのため相続税対策になることもあります。


 そして、一番普及しているのが認知症対策です。遺言は財産を持っているご本人が亡くなってからの財産に対する対策なので、ご本人のためにはなりません。老後安心して暮らせるように、そして自分が亡くなった後も自分の大切な人たちがもめないように、自分の思った人に財産を承継させることができるのが親愛信託です。自分が元気な間に自分がいなくなった時に子供たちや後継者が自分の財産をどのように扱うのかを見届けることができ、助言やアドバイスをすることもできるのです。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1111号 2024年3月16日 より 引用)







Comments


bottom of page