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想いを叶える親愛信託 56 

第56回「不動産売買の方法2」



先代の志を引き継ぐ不動産継承の仕方


 自己所有の不動産を将来の認知症対策や相続対策のために信託財産にするというのが、一般的な信託の活用方法だと思います。また、信託を使わずに、例えば財団法人を作って不動産を財団法人の所有にし、その財団法人で不動産を活用していくという方法があります。親愛信託を使い、財産を目的に従って活用していくことが実現できます。


 先代から引き継いだ不動産を所有しているものの、高齢で自ら維持していくことが難しくなり、子供たちも各自が不動産も仕事も持っているため継ぐ意思がないということで、その不動産を誰かに貸すかもしくは売却するか考えていたAさんがいました。貸すとしても自分が認知症などになってしまうと賃貸契約ができなくなるリスクは残るので、できれば売却したいという意向でした。


 先代は、地域の人のためにこの物件のほかにも建物を建てたり、困っている人のために相談に乗るという活動をしていました。私がNPO法人を設立して、地域の人の困りごとの相談に乗ったり、解決するきっかけを作りたいという話をすると「この不動産を活用してもらえると先代の志を引き継ぐことになる」ということで、その不動産を購入することになりました。


 ただ、私自身が相続人である息子と長年連絡が取れていないという事実があり、私が死亡後に相続の手続きが複雑になる可能性があって、遺言を書いておいたとしても遺留分侵害を主張されるとその不動産を使用しているNPOに迷惑が掛かってしまいます。ずっと連絡が取れていないので、私の死亡時にその事実を知らない可能性もあります。


 しかし、遺言手続きのために遺言執行人は相続人に通知する必要があります。もちろん遺言がなければ相続人のものになってしまいます。それまでに私と息子の仲が戻り、私の志に息子が協力してくれればそれに越したことはありませんが、そうなる可能性は現時点では非常に低いです。


ノーアクション・遺言よりも減るリスク


 そこで、親愛信託を活用します。信託財産の受益権の承継に相続の手続きはいりません。受益者の死亡により、受益権が次に指定されている受益者に移る際に相続人に通知する必要もありません。…ということは、もしかしたら知らないまま何事もなく過ぎる可能性もあります。


 受益権はみなし相続財産として、相続税の申告は必要になるので、その時には信託財産の存在は分かりますが、相続税がかからない場合には分からないままの可能性もゼロではありません。不動産の存在を知ったとしても、これまでの経緯やその使用方法から、想いがあって信託財産にしていることを知ると遺留分侵害を主張しない可能性もあります。


 少なくとも何もしないか遺言書よりももめごとリスクは少なくなります。そして、相続人ではなく「地域の人のためにこの不動産を活用する」という志を持った人に引き継いでいくことが可能になります。


 相続の制度はとても大切なものですが、自分の思った通りに物事を進めようとする際に障壁になってしまうケースもあります。親愛信託活用によって、その壁をなくすことができるのです。手続きとしては、「地域活動のために不動産を使用すること」を目的とし、Aさんを委託者、私が受託者として信託契約を結びます。当初の受益者はAさんです。そして、受益権を譲渡し、受益者を変更します。もちろんAさんが委託者、受託者が私、受益者が私で受益者の地位と権利の譲渡により、Aさんに対価を支払うというやり方でも構いません。そうすることで、この不動産は信託が終了するまで地域の人のために使用され、終了するときにはNPO法人や財団法人などが所有者になるようにしておき、そのまま地域の人のために使えるようにすることができます。


 受益権の移動には課税が生じますので、受益者は慎重に選ぶ必要があり、所有権に戻す時も必要以上の課税がないように気を付けなければいけません。単なる高齢者の認知症対策だけではなく、親愛信託はこのように相続にとらわれず志を引き継いでいくことにも活用できます。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1105号 2023年11月16日 より 引用)







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