第53回「不動産業における親愛信託活用のメリット」

不動産売買・賃貸がやりやすくなるには
不動産の取引において問題になってくるのは主に相続と認知症です。相続が発生して所有者が決まらない場合や相続人の中に連絡がつかない人がいたり、印鑑を押してくれない人がいたりして相続登記ができない場合と所有者が認知症になるリスクです。
せっかくいい物件がある場合でも取引ができなければ意味がありません。そして、不動産の取引は生もののようなところがありますので、1年かけて売れる状況になっても買主さんはすでに他の物件を購入してしまっているというようなことになりかねません。
相続登記が終わっていない場合、売却できるようにするために時間がかかってしまうケースもあります。そうならないように日頃から不動産はできるだけ信託財産にしておくべきなのです。まだまだ信託の知名度も低くて、他の人がやらないことは心配なのでやらないという不動産オーナー様も多いと思うのですが、みなさんが当たり前に信託を活用するようになると不動産の売買や賃貸はとてもやりやすくなると思います。
まず、親愛信託を活用すると所有者が認知症になってしまって取引ができないという事がなくなります。他にも共有名義になっている不動産を信託財産にして名義を受託者一人にしておけば、受託者一人だけの書類と印鑑で取引できます。
相続登記が終わっていない場合にはいったん所有者を確定させる必要があります。相続人を探して、それぞれに印鑑をもらい、それから登記をするとなると費用も手間もかかるので、そのままにしておいた方が良いとなってしまっている不動産があると思いますが、売却することを前提に信託を活用すれば、共有でも構わないのでとにかく登記しておくことができます。
収益の好機を生む親愛信託の活用
気が付いていない人も多いのですが、先祖の名前のまま登記をせずに不動産を持ち続けるとリスクが出てくるケースもあります。万が一その不動産に何かあった時に責任を取らないといけないのは相続人です。相続登記も義務化になって今後は今までのように放置しておくとリスクが増します。
もちろん、不動産の価値が低すぎて、信託を活用しても解決しないものもありますが、「共有のリスクや手続き費用の問題など信託を活用すれば解決できるものを決着させておけば、不動産を流通させて有効活用できる」という事をまず不動産業の方に理解してもらい、一人でも多くの方に分かってもらえるようすると、せっかく価値があるのに何も活用できていないという不動産を1つでも減らすことができて、関わっているみなさんのメリットになります。
親愛信託を活用すると時間の調整ができます。慌てて売却したりしなくても受託者が管理・運用・処分することにより迅速に対応することもじっくり取引相手を選ぶこともできます。共有持分があっても名義を持っている人が一人なので迅速性が高まります。高齢の所有者になかなか世の中の現状を把握してもらえず遅々として進まない取引も次世代の人に受託者になってもらう事でスムーズにいくようになります。
共有持分の割合や不動産の活用の仕方でもめている場合でも、信託を活用して売却し、金銭に変え分けると解決する場合もあります。
不動産は均等に分けることや自分たちの思うように分けることが難しいのですが、これを信託受益権にして分けると均等に分けたり、納得いく割合で分けることが可能になります。そうすることによって、なかなか売ってもらえない不動産を売ってもらえる事ができたり、貸してもらう事ができたり、流通しなかった不動産を動かすことができるようになります。
他の人ができないことができるようになるとこれはビジネスにつながり、次のチャンスにもなります。案件や物件によって使える親愛信託のスキームは変わってきますが、不動産業の方にとって、ビジネスの幅がひろがり、収益のチャンスになることは間違いありません。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1099号 2023年8月1日 より 引用)
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