第51回「「家族信託®」「民事信託」「親愛信託」の違い」

世間の認識で異なる各信託の呼び名
信託法が改正されたのが2006(平成18)年です。そして翌年に施行され、その1年後に自己信託が施行されました。それまでの信託法は商事信託を想定していて、一般の人が受託者になるにはハードルが高く、全くなかったわけではありませんが、商事信託以外の信託はほぼ使われていませんでした。
まず、商事信託とはどのようなものかと言うと、信託会社や信託銀行が報酬をもらい受託者となる「業として行うビジネス」の仕組みです。改正後に「業として行うのではなく、信頼関係のもとで成り立つ、一般の人が受託者になる商事信託以外の信託」のことが「家族信託®」「民事信託」「親愛信託」などと呼ばれるようになりました。
呼ばれるようになりましたというのは、法律で定義が決まっているわけではなく、商事信託と区別するために使われているということになります。
また、「実家信託®」「不動産信託」「ペット信託®」などと呼ばれるものもありますが、それは仕組みを指しているのではなく、信託の対象となる財産によって呼び方が分けられているものになります。信託財産が実家であれば「実家信託®」、不動産であれば「不動産信託」、ペットであれば「ペット信託®」というように使い分けられています。
では、具体的に「家族信託®」とは、どういうものかというと、家族のための家族の信託というふうに説明されていることが多いです。自分の持っている財産を家族に管理・処分などをしてもらうのが、「家族信託 」ということです。
次に「民事信託」はというと、これも自分の財産を家族に託す仕組みというように説明されていることが多く、家族信託と同じものだけれども呼び方が違うだけというように使われているようです。
では、「親愛信託」とはどのようなものかというと、家族や親族など戸籍や相続人に関係なく、自分の信頼できる人に自分の財産を託せる仕組みです。受託者が法人というケースもありますし、信託法でできるようになっている受託者が自分の「自己信託」というケースもあります。
自分の信頼できる人とどのような関係であろうとも、お互いが納得すれば成立するのが「親愛信託」なのです。法律で定義が決まっているわけではないけれど、世間の認識では、家族で契約をするのが「家族信託®」もしくは「民事信託」、家族や親族に限らず信頼関係があれば成立するのが「親愛信託」と使い分けられているようです。
世間の認識で異なる各信託の呼び名
これからの時代、多様性の社会が広がり、いろいろな生き方をする人が出てきます。アイデア次第で稼げるようになり、家族を作ることだけが幸せではなくなってきています。おひとりさまも増えてきます。そうなった時に本当に必要なのは親愛信託だと思います。呼び方はどのようなものにしても、信託は家族であるか、ないかにとらわれず、相続ではない形にできる素晴らしい仕組みなのです。
事業承継も親族ではなく従業員に引き継がせる承継が増えてきているそうです。世の中たくさんの情報があふれています。自分は将来どうなりたいという選択肢が少なかった時代とは違います。自分だけの財産管理や財産承継が実現でき、跡継ぎを作るために結婚して子供を作るというようなことをする必要がなくなるのです。
どの方法が優れているということではなく、自分にあったものを選ぶことができるという事が大切なのだと思います。家族がいないので、財産を増やしても、遺す人もいないから国庫に帰属してしまい意味がないというような考えの人こそ、親愛信託を活用してほしいと思います。おひとり様や子どもがいない人が、自分の将来のために信頼できる人と親愛信託を活用し、財産の管理や承継をきちんとしておくことで安心して長生きができるのです。
呼び方や世間の常識にとらわれずに自分にあった親愛信託の活用ができるように、提案する側も活用する当事者も信託の基本をしっかり押さえていてほしいと思います。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1096号 2023年6月16日 より 引用)
Comments