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想いを叶える親愛信託 55 

第55回「不動産売買の方法」



信託を活用した不動産売買に備える


 不動産を売買するとき、通常は所有権で売買します。不動産業者は不動産の所有権の仲介をするのが現状です。相続の新しい形が信託です。不動産売買の新しい形が信託になる日が近いのではないかと思います。もちろん金融機関の理解や周辺の仕組みなどの整備も必要ですし、税制や判例なども必要になりますが、今後は不動産の所有権の仲介だけでなく、信託を活用した売買にも対応できるように今から準備しておくべきだと思います。


 自分の相続が複雑なので、不動産は買わないという方がいらっしゃいます。そういう場合、購入した不動産を信託財産にしておけば、相続とは違う方法で自分の不動産を残すことができますから、自分が亡くなった後の心配はありません。もしも、残したい人がいなければ、自分が亡くなった後にその不動産を売却して金銭に変え、どこかに寄付してもらうこともできます。


 具体的に例をあげると、相続が複雑なAさんがいます。Aさんが通常通り、物件を見つけて、不動産を仲介してもらい所有権で購入します。Aさんが購入した不動産を信託財産にし、自己信託を活用して、受益権の一部を自分の信頼できるBさんに渡しておき、自分が亡くなるか判断能力がなくなるまでは不動産の名義をAさんが持ちます。後継受託者にBさんを指定しておきます。不動産を売却するときには、通常の所有権と同じように仲介してもらい売却と同時に信託を終了させて、買主は所有権として不動産を取得します。


 売却した金銭は受益者の物になるようにしておき、Bさんが持っている受益権分の金銭はBさんの物になります。Aさんが生きている間はAさんのために使い、Aさんが亡くなったらAさんの指定したところに寄付します。このスキームですと不動産業者の役割は通常の仲介と売買になります。


元の所有者の想いをつなげていく承継方法


 では、同じケースで、信託を活用した売買とは―。例えば、AさんがXさんの持っている不動産を購入したいと自分の意思を伝えると、Xさんは「売却してもよいが相続でもめるようなことにはなって欲しくない。自分が先祖から守ってきた不動産は地域の人に役立てるように使ってくれるのなら売却してもいい」というような条件があるとします。


Aさんはこれまで、テナントを借りて地域の人が買い物に来る商売をしていました。Xさんから不動産を購入したらそこでこれまでの商売を続けたいということなので、Xさんの希望を叶える使い方なりますから、売買するように進めたい…。ただし、Aさんは相続の時にもめる可能性もあるし、今は地域のために商売をするつもりだけれども、将来いい条件で購入したいという人が現れたときに、お金につられて、地域のためにはならなくても売ってしまうかもしれないという心配がある…。


 そこで信託を活用します。Xさんが委託者でAさんが受託者です。目的は「相続でもめることなく、信託財産である不動産を地域の人のために活用し、新しくマンションを建てたりするために売却したりしない」という内容にします。そして、当初の受益者であるXさんからAさんは受益権を買取ります。Aさんの受益権の一部をBさんに渡し、この場合有償でも無償でも構いませんが、無償で渡すと贈与の対象になります。Bさんを後継受託者に指定しておいて、Aさんに万が一のことがあった時にBさんにきちんと不動産を承継してもらうようにしておきます。


 先に紹介した所有権で売却する時との違いは、Xさんの想いをつなげて、地域のために使ってくれる人を探すことです。XさんとAさんの契約時の不動産業者の役割は仲介ではなく、信託契約がスムーズに進むようにコンサルタントとしてかかわります。実際に信託を使った契約を私自身が実行したので、次回は具体的にご紹介したいと思います。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1103号 2023年10月16日 より 引用)







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