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想いを叶える親愛信託 47

第47回「信託を活用した場合の課税に対する国税局の回答」



居住用財産を信託受益権で取得した場合の控除は?


 租税特別措置法35条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)の3000万円の控除が、居住用財産を信託受益権で取得した場合、もしくは死亡終了で帰属権利者として相続人が取得した場合に適用されるのかというものに対して、国税局の回答が出ています。


 もちろん個別の事案によるということですが、この回答が出て、「自宅を信託すると不利になる」と言って慌てている人もいます。しかし、そんなことはないと思います。


 どういう事案か簡単にご紹介すると、母と子が居住用家屋と土地を信託財産とする信託契約を締結しました。母の死亡により信託は終了して、残余財産となった居住用家屋と土地は残余財産の帰属権利者である子とその弟に帰属することになり、その後に居住用家屋と土地を譲渡したというものです。


 その譲渡に関わる譲渡所得の計算上、租税特別措置法第35条第3項の特例を使って、母死亡により子と弟が取得した不動産の譲渡時に3000万円の控除が受けられるかどうかという照会に対する回答です。


 信託契約などにより信託の受益権を取得する行為や、信託が終了し残余財産が権利者に移転した場合などについては、法律上の「贈与」又は「遺贈」には該当しないものの、実質的には贈与又は遺贈と同様の効果をもたらすことから、相続税法においては、これらの取得又は移転などについて贈与又は遺贈による取得とみなして相続税又は贈与税の課税対象とする措置が講じられています(相続税法第9条の2)。


 しかし、相続の場合と違い譲渡に関わる譲渡所得の計算上、本件特例の適用を受けることはできません。したがって居住用不動産を信託財産として信託契約をし、委託者の死亡を終了事由にして相続人が帰属権利者となっているケースで、その相続人が居住用不動産を売却した場合は3000万の控除は受けられないという事になります。


信託財産にして特例が使えなくなるのは少数


 居住用不動産を所有権のまま相続して売却すると3000万円の控除を受けられるけれども、信託財産にしてしまうと3000万の控除が受けられないとなると、信託は使わない方がいいと安易に考えてしまいますが、どのような場合にこの3000万の控除が必要になるか冷静に考えてみてください。


 まず、居住用不動産を購入した時の書類がすべて残っていて、購入費用よりも売却金額が少ない場合には控除の問題は出てきません。売却することなく、ずっとこの家に相続人の誰かが住み続ける場合にもこの問題は出てきません。


 信託の活用方法でよく言われている認知症対策で、老後に自宅を売却して、施設の費用を賄いたいという場合にもこの問題は出てきません。死亡後3年以上経って売却するケースや1億以上で売却できるケースの場合には元々この特例の適用対象ではないので問題になりません。


 …ということは、本来であればこの特例が使えたのに、信託財産にしたから使えなくなったというケースはごく少数になると思います。一つ目は認知症対策で親愛信託を締結しており、委託者の老後に実家を売却する予定が、売却する前に委託者が亡くなってしまって、結局亡くなってから3年以内に売却することになり、購入時の書類がなく、取得費用が5%しか認められないというケース。二つ目は委託者が生きている間は売却したくないと言っているが、亡くなってすぐに売る予定のケースです。


信託活用は将来の計画と変更時への備えが必要


 このように信託を使っているから特例が受けられなくなって、不利になるケースは非常に少なく、二つ目のように亡くなった後すぐに売却する予定があるのであれば、自宅のみ信託を活用しないとすれば良いのです。


 信託を活用する場合には、将来の計画を立てておくことが大切になります。財産について、どのタイミングで処分、売却するのかを決めておいて、それを実現させるには信託財産に入れた方が良いのかどうか。もしその計画に変更があればそれに対応できるようにしておかないといけないという事になります。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1089号 2023年2月16日 より 引用)







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