第40回「家族に継がせる?誰に継がせる?」

収益物件など複雑な不動産の承継・後継
収益物件や資産管理会社などを誰に継がせるかというのは、遅かれ早かれ決めないといけないことです。自分の代で終わらせるという方もいらっしゃいますが、通常の株式会社などと違って収益物件などの不動産の場合、自分の代で終わらせることはなかなか難しいと思います。
すべて売却しなければ終わらせるという事にはならないですし、売却して、借入だけが残っても「どうやって返済するの?」ということになります。すべて売却した結果、利益が出れば、税金も払わないといけませんし、「残った金銭を自分の相続までにどうするか?」という問題が残ります。
財産の中に不動産があると自分の代で終わらせるというのは現実的ではないので、「誰に継がせるのか」という事を考える必要がでてきます。自分の計画通りに進めばよいのですが、法定相続や遺留分があり、思うようにならないこともあります。特に家族ではない人に継がせるときは、思いどおりにいかないケースが多いです。自分の家族に継いでもらういわゆる親族内承継が多いのは確かですが、自分の親族よりも他人の方が不動産を運営していく上で優れている場合もあり、親族が継がないケースもあります。
他人に継いでもらう場合に所有権のまま渡してしまうと自分の親族のものではなくなってしまいます。そこで、親愛信託を使って受託者を親族でない人にしておいて、財産権は親族で承継するようにしておきます。受託者はきちんと報酬をもらうことによって、ただ働きにはなりません。
通常、親愛信託の受託者は無報酬のことが多いのですが、正当な報酬を支払うことはできますし、そうすることによって、お互いのトラブルを防ぐことができます。ただ、家族や親族でない人に任せるのは抵抗があるという人も多いと思います。家族ではないということに抵抗があるかもしれませんが、信頼おける人が家族でなくなる可能性はあります。たとえば血縁関係のない嫁や婿などは、将来離婚すれば他人になります。でも、個人的には信頼できる場合やその先の孫に継がせたい場合などに、一旦は他人になってしまった元家族を後継者に選びたいという場合もあります。
親族でない信頼関係がある者に承継する手段
実際にあった事例で、子供のいないご夫婦は、自分の子と接するようにご主人のお姉様の娘夫婦、つまり姪夫婦と交流をしていました。特に姪の夫に後を継いでもらい、ゆくゆくは自分達の財産は姪夫婦の子に残せるようにしたいと思っていました。しかし、姪夫婦の関係はうまくいっていなかったようで、近々離婚することになり、跡取りになる姪夫婦の子は姪の夫の方が連れて行くという事です。
そうすると子供のいないご夫婦と姪の夫は他人になってしまいます。離婚した配偶者の親族と離婚後も付き合いがあるというケースはありますが、姪夫婦の子に財産を承継したい場合、ご夫婦と姪の夫が親族でなくなっても、個人的に信頼関係があると成り立ちます。そのように個人的に信頼関係がある場合は親愛信託を活用して、法的地位をきちんとしておきます。
他人を受託者にすることも可能なので、離婚後に親愛信託を実行することはできますが、もしも元々が親族なのであれば、親族のうちに実行していたほうが、手続きがスムーズに進みます。今回の事例は事前に離婚がわかったので、今のうちに親愛信託をスタートさせておくという事になったのですが、そうではなく普通に親愛信託を活用していて、将来自分の計画とは違うことが起こっても自分の想いは叶えられるという事です。
今回は姪の夫に対して個人的な信頼関係があったので、そのまま自分の不動産を継がせたい、でも親族でないものに渡してしまうのは本望ではないという事で親愛信託を活用しましたが、今回と違い個人的に信頼関係が特別に無い場合は親族でなくなった時点で、信託契約を変更して、受託者を親族に変えるという事もできます。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1078号 2022年7月16日号 より 引用)
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