第38回「遺言じゃだめなの?」

万が一のリスクに備え 親愛信託にしておく
「親愛信託が優れている仕組みなのは分かったけれど、もうすでに遺言を書いているから大丈夫」と言う方がいらっしゃいます。また、収益不動産は親愛信託を活用するけれど、現金は遺言で十分という方もいらっしゃいます。たしかに収益物件でも現金でも遺言で困らない場合もあります。でも困らなかっただけで最善ではないかもしれません。
遺言でできることは、所有者が亡くなった時に遺言書に書かれた通りに、相続財産について相続の手続きをするということです。当然、相続の手続きが必要ですし、所有権として自分の財産を渡すので、渡した人の自由になりますし、自分で管理できない人に渡してしまうと凍結してしまうか、後見人の管理下に置かれることになります。
「相続で揉めることはないし、渡したい息子は元気で夫婦仲もよく、子供もしっかりしているから大丈夫」ということで、「遺言で十分」と判断するのではないでしょうか。結婚するときに離婚することを想定している夫婦はいないように、将来のことは誰にも分かりません。自分が病気になると思って病気になる人も、事故に遭うと思って身体が不自由になる人もいないでしょう。
生命保険や自動車保険に入っている人はたくさんいます。何も起こらないかもしれませんが、万が一の時に備えて、保険契約をして保険料を支払います。保険会社によっては、保険料を支払うことによって、様々なサービスを受けることができます。何もないかもしれないけれど、リスクに備えて、困らないように、周りの人に迷惑をかけないように、将来の出費がかさまないように対策をするという意識があるから保険を契約するのだと思います。
同じように、万が一に備えて、できる限り自分の財産は信託財産にしておくことをおすすめします。「すでに遺言書を書いている場合に遺言書に書いている財産を信託財産にできるのでしょうか?」と心配する方もいらっしゃいますが、遺言書に書いている財産も信託財産にすることができます。その財産は信託行為が優先されます。遺言書に書いてある財産を処分してしまって、亡くなった時にはその人の財産ではなかった場合と同じです。その財産は信託契約(宣言)の通りに管理、承継され相続財産からは外れます。
遺言書よりたくさんのことが可能な親愛信託
これまでもご説明したように信託財産にしておくと自分の意思が自分のいなくなった後にも引き継がれます。「自分のやり方が間違っていない!」と思う方はぜひ親愛信託を活用してください。自分のやり方が後世まで引き継がれます。遺言ではそれは叶いません。
そうではなく、「自分のやり方が正しいかどうかわからない…もし自分のやり方が間違っているのであれば、誰かにアドバイスして欲しい…修正して欲しい」という方も親愛信託を活用することをおすすめします。
所有権の場合は所有者のみがその財産の権利も権限もすべて持つことになります。すべて所有者の責任です。親愛信託を活用すると自分の信頼できる人を協力者にすることが法的にできます。自分一人の意見ではなく、信頼できる人の意見を取入れたり、自分が権限や権利を行使することができなくなっても信頼できる人が代わりに意思を引継いでくれます。自分一人ですべてを担う必要がないのです。しかも自分の信頼のできる人だけを関係者にすることができます。
遺言ではそれはできません。自分の自由にしたい方も信頼できる人の協力を得たい方も親愛信託の活用が有効的なのです。間違いなく遺言と同等かそれより優れています。遺言書よりできることがたくさんあるからです。遺言書より費用は掛かるケースがほとんどですが、費用よりメリットの方が必ず多くあるはずです。ご自身の将来をしっかり考えて、本当に遺言だけで大丈夫なのかを検討していただければと思います。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1074号 2022年5月1・16日合併号 より 引用)
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