第28回「売るための親愛信託・残すための親愛信託」
将来、不動産を売るための信託に関する相談が増加
自分の持っている不動産を将来は売却して、自分が生きている間に好きなことに使いたいと思っている方もいらっしゃいます。自宅が必要なくなった時に売却して老健施設の入所費用や介護の費用に充てたいという方もいます。
このように将来、不動産を売るための信託の相談が増えています。人気のある地域で、売却物件が出てくるのを買い手が待っているような地域であれば自分の好きなタイミングで売れますが、そんな好都合の不動産ばかりではありません。
「売れるタイミングがいつくるか分からない」「買いたいという人が出てきたらすぐにでも売りたい」-しかし、売れるタイミングだったとしても所有者が認知症になっていると売ることができません。そこで、売れるタイミングがきた時に、名義人がきちんと売却の手続きがとれるように、早めに親愛信託を使って名義を変更しておきます。
自宅を使わなくなったら売りたいと思う方は多いと思いますが、使わなくなるということは住んでいる人が住まなくなる時ということになり、所有者が施設に入るタイミングなどになります。
所有権のまま、持ち主が1人で生活できなくなり施設に入ることになると、自宅を使わなくなっても売却の契約行為ができず、もう必要がないのに売れないということになります。住み慣れた自宅にぎりぎりまで住めるように、事前に名義を子などに変えておけば自分の気が済むまで自宅に住み、自分で生活できなくなったら施設に入るということができます。
「売る」「買う」「残す」ために親愛信託を活用
あと、よくあるケースがもう一つ。所有者の方が、遺言も遺さず信託契約もせず、自宅について何の対策もせずに突然お亡くなりになると、思い出を引きずったり、なんとなく「すぐに売るとバチが当たりそう」などと言って、残された家族が3回忌までとか7回忌までは自宅をそのままにしておくというケースがあります。
誰も住まなくなると家はすぐに傷んでしまいます。住む人がいなくなって、すぐに売却すれば売れるような住宅も何年もおいておくと売れなくなる可能性があります。
自分の大切にしていた自宅が傷んで売れなくなる状況を持ち主は望んでいないと思いますが、残された者は「何となく踏ん切りがつかない」と言います。そうならないように元気なうちにきちんと自分の気持ちを残す人に伝えておくことが大切です。
そこで不動産を売るための準備を親愛信託でしておきます。「自分がいなくなったり、使わなくなったりしたときには遠慮せずに売却して」ということを受託者に伝えておきます。
そして不動産を売るために親愛信託契約を結んでおきます。そうすると受託者は売る状況がそろったら契約書通りに売らないといけなくなります。もちろん、有利な条件で売却できるようなタイミングにしておくこともできます。
逆に売らずに残して欲しいという信託もあります。先祖代々の土地やずっと子孫に引き継いでほしい不動産などは、どういう風に残していって欲しいのかを親愛信託契約書の中に書いておき、自分の思った通りに残していくことができます。
全く反対の行動ですが、どちらも親愛信託で望みを叶えることができます。不動産だけでなく、金銭を信託財産にしておいて、優良物件が出た時に購入してほしいという親愛信託契約を結ぶこともできます。「売るため」「買うため」「残すため」にいろいろな対応ができ、しかも元々財産を持っている人の希望が叶えられるというのが、親愛信託のすごいところです。
きちんと決めておけば、遠慮することもありませんし、亡き親が「こう思ってたはず」と残された子供たちや兄妹でもめることもありません。自分の希望を叶えるためでもありますが、それだけではなくみんなが幸せになる方法です。
不動産が原因でもめて、「相手の顔も見たくない」となる話も聞きます。そんなことにならないように「売るため・残すため」の親愛信託を事前に結んでおきましょう。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1058号 2021年7月16日発行 より 引用)
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