第26回「シングルマザー・シングルファーザーの信託の活用」
未成年者の相続財産を巡るもめ事・困り事
離婚や死別など事情があって子供をお一人で育てている方がいます。ひとり親世帯の数は30年前に比べると1.5倍にもなっているそうです。2015年の国税調査によると、一般世帯が5300万世帯あるのに対して、母子世帯がおよそ75万世帯、父子世帯がおよそ8・4万世帯存在しています。
最近シングルファザーも増えてきていますよね。自分にもしものことがあったら、ご自身の財産と子供を残して逝ってしまうことになります。財産がなくても困りますが、あっても困ることがあります。もし財産がない場合でも、生命保険には入っているという人もいるのではないでしょうか?
生命保険も含めて財産を遺した時に困るのが、「子供では管理できない」ということです。未成年者の法律行為は親の同意がいるものがほとんどです。不動産を相続で所有した場合に売却するときには親の同意が必要です。でもその親がいないので、その親に代わる人を決めなくてはなりません。
ここで、もめ事が出てくるのです。たくさんの財産を子供が相続してしまうと、それを狙って自分が子供を育てるから親権を持つと言い出す人が出てきます。逆に責任の押し付け合いをして、誰も親権者になりたがらないこともあります。亡くなったひとり親の両親が元気な場合は、おじいちゃん・おばあちゃんが親権者になることが多いと思いますが、高齢だったり、遠方だったりという理由で実現できないこともあります。
そして、周囲の人が困るのは「亡くなった親がどうしたかったのかが分からない」ということです。子供に財産を残してあげたいと「遺言」を書いている人はいると思います。最低限遺言は書いておくべきと思いますが、遺言だと未成年の子供が財産を持つことになってしまいます。
ひとり親の場合は望まぬ結果になる確率が高い
そこで、親愛信託を使います。自分にもしものことがあった時に財産を受益権で子供に残してあげるようにしておくと、子供が自分自身でその財産を管理しなくても収益のみを得ることができます。さらに誰に管理してほしいのか事前に決めておくことができるので、管理してほしい人を決めておき、その決めた人に事前にこうしてほしいと伝えておくことができます。
そうすると「高齢のおじいちゃんおばあちゃんが実際に子供にご飯を作ったり、洗濯をしてあげたりすることはできても、財産の管理は難しい」というような場合にも使えます。また、「元配偶者に子供の面倒は見てもらっても、財産は管理させたくない」もしくは逆に「財産の管理は元配偶者にしてもらっても、子供にはかかわってほしくない」というようなケースにも使えます。
タレントの藤本敏史さんと木下優樹菜さんが離婚しても仲良しというように、結婚生活は続けられないけれど仲良しの元夫婦もいると思います。そういう場合は、亡くなった親の親族が出てきてももめないように、事前に自分にもしものことがあったら、元配偶者が子供の財産を管理できるようにしておきます。
でも親愛信託の受託者になるだけなので、財産権は子供のものであり、元配偶者には財産がいくことはありません。「財産権を持つ人と名義人となって財産を管理する人を別々の人に指定できる」という親愛信託の仕組みを最大限に活かすことができます。自分が指定しておかないと財産が思いもよらない人の管理下になったり、もっとひどい時には全く自分が渡したくない人に財産そのものが渡ってしまうこともあります。
ひとり親の場合、そうなる確率が高い上に実際に困るのは可愛い子供なのです。生命保険の場合は生命保険信託を使い、管理は信託会社にしてもらうようにします。親愛信託の場合は「自己信託」でスタートさせて受益権を少しだけ子供にも持たせるようにしておき、自分の次の受託者を決めておきます。そうすると自分がいなくなったら次の受託者に名義が変わってその人が管理するようになるのです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1054号 2021年5月1・16日発行 より 引用)
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