想いを叶える親愛信託 18

第18回「信託を使った事業承継(生前に行える事業承継対策)」


全部の条件が良いときに事業継承するのは難しい


 事業を始めるときはきちんと計画してから始めますよね。事業承継も計画的に実行するのが理想です。ただ、現実的には時の流れに任せて、限界まで引っ張り、自分の望んでいない形で承継してしまうことが多いのではないでしょうか? 「先代さんが亡くなったので事業を継いだ」というのがその典型的なケースですよね。


 計画的に行うためには、まず自分のことをきちんと把握することが必要です。客観的に「自分がどうすればいいのか」を考える時間を作ることが大切なのだと思います。でも経営者はすることがたくさんあって、自分の時間をなかなかつくれませんよね。ゆっくり時間をかけて考え、きちんとまとまってから実行しようと思っていると、いつまで経っても事業承継は実現しません。自分で築いてきたものを渡したくないという感情的な部分もあると思います。


 後継者に渡すものは、経営権・財産権だけでなく理念・経営方針など先代の“想い”の部分もあると思います。そのほか、従業員や取引先との関係もあるでしょう。税金の問題も出てきます。すべての条件が良い時に渡そうとするとなかなか難しいですよね。

 

 「不動産を事業としている個人・法人」「収益不動産を持たれている個人・法人」と様々なパターンがあると思います。個人の場合、事業や不動産そのものを譲ることになります。法人の場合、一般社団法人や合同会社などのケースもあると思いますが、株式会社がほとんどだと思いますので、まず株式を譲ることになります。


経営権と財産権を別々の時期に渡せる親愛信託


 親愛信託を使うと経営権と財産権を渡すタイミングを別々にすることができるのです。さらに将来自分に想定外のことが起これば変更できるようにしておくこともできます。


 今は世の中のどんな業種も新型コロナウイルス感染症の影響を少なからず受けていると思います。不動産の価値そのものが受ける影響は少ないかもしれませんが、収益は減っているのではないでしょうか? そのために株式会社の株の価値が下がるケースもあると思います。


 株価が下がるということは後継者に株を譲るチャンスです。「株価が高いために後継者に株を譲ると多額の税金がかかるので譲るタイミングを相続まで待つ」または「退職金を出して株価を下げるため退職する」など事業承継のタイミングを税金に合わせてしまっているケースもあると思います。


 そこで、そうならないように親愛信託を使って株を議決権と財産権に分けます。そうすることによって、経営する人と財産権を持つ人を違う人にすることが可能になります。税金は財産権が移動した時にかかるので、税金のことを考えずに議決権のみを渡すことができます。


 先代が自分で議決権を行使して経営を続けて、新型コロナの影響などで株価が一時的に落ちている場合には、自己信託を使って株の財産権の部分のみを後継者に渡しておくのです。そうすると議決権を移動させたときには税金はかかりませんので、今後、株価の変動、税金のことを考えることなく、先代が好きなタイミングで議決権を後継者に渡し、経営を任せることになります。


 後継者に株そのものを渡してしまうと、将来、想定外のことが起こっても先代がその株を取り戻すことは困難になりますが、親愛信託を使って受益者変更権者を設定しておくと、財産権である受益権を持っている受益者の意思ではなく、受益者変更権者が受益者を他の人に変えることができます。


 もちろん受益権が移動するので税金はかかりますが、財産権を自分に戻すこともその他の適正な人に変えることもできます。親愛信託を使うと議決権と財産権を渡す時期をそれぞれ別にすることができるので、自分のペースで事業承継ができます。そして、最大のメリットはまず始めておいて、将来の変化に対応しながら変えていくことができるということです。


監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表


略歴


2015年行政書士まつおよう子法律事務所開業。

16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1041号 2020年9月16日発行 より 引用)






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