想いを叶える親愛信託 10

第10回「遠方に子供がいる。後見との使い分け」




不測の事態に備え 信託契約を結ぶ


 親子が一緒に暮らしていると、財産状況など細かくは知らなくても、親がどのような生活をしているのかおおよそは分かります。財産の管理ができているかどうかもなんとなく分かりますし、もしも親が認知症になったり、身体が不自由になった時なども、子供が代わりに財産の管理をすることがある程度は可能です。


 ただし、不動産についての管理や契約などは、登記簿の所有者が親なので、子供が代わりに行うことはできません。そのため、不動産の所有者が高齢になると子供に贈与することを考えますが、登記費用も税金もかかります。相続時精算課税を使って、税金は保留にすることもできますが、不動産の時価は相続が起こった時にどうなっているかは分かりませんし、今後もどうなるか分からないので慎重に行わなければいけません。


 その時に親愛信託を使って、名義のみを子供に移します。財産権はもともとの所有者が持ったままなので、贈与税などの課税はありません。登録免許税も贈与の時の5分の1程度ですし、名義が変わっても子供は財産を取得していないので取得税はかかりません。将来、相続が起こった時には、みなし相続財産となり相続税はかかりますので、税金を減らすために行うものではありません。


 ただ、本当はその不動産を貸したり、売ったりして親のために使いたいのに、所有者である親の判断能力がなくなってしまったため、その不動産を有効活用できない事態に陥らないように、親と子、もしくは親と信頼できる人の間で信託契約を結ぶのです。


 信託法では、契約者が親族でなければいけないという決まりはないので、不動産などの財産所有者である親が信頼できる人であれば契約を結ぶ相手は誰でもかまいません。自分の財産を任せられる人を選べば良いのですが、それが子供であるケースが多いというだけで、子供でなければいけないというわけではなく、子供がいない人が親族ではない人に財産管理を任せたい時も親愛信託を活用することができます。


 不動産の名義人になることは遠方にいても可能です。自分自身で管理できない場合は、物件近くの不動産管理会社に任せればよいのです。ただ、親の日常の金銭管理や契約行為は遠方にいると行うことは難しいのが実情です。その時に後見制度を使います。信託財産になっているものは、名義人となっている受託者が管理をするので、後見人が管理するものではなくなります。


 親の持っている財産のうち、信託しているものに関しては受託者が管理し、後見人がつけば信託財産以外の財産の管理を後見人が行うことになります。そうすることで、遠方に住んでいても大切な財産や大きな財産に関しては受託者が管理や運用、処分をして、その他の財産に関しては後見人に任せることになります。


親と子双方のために 後見制度&親愛信託


 具体例としては、収益アパートと自宅不動産を持っている親が札幌にいて、子供は東京に住んでいるとします。親の日常の面倒を見ることができないので、そこは後見制度を使います。何もしないまま、後見制度を使うと、将来、親が施設に入ったので自宅を売り、収益不動産を残したいとしても、よほどの事情がない限り実現できません。金銭があればまず自宅を売ることはできませんし、金銭がなければ収益アパートから売ることになります。

 でも、親自身も子供も収益アパートは残して、必要がなくなった自宅から売りたいですよね。ところが後見人がついてしまうとできなくなる可能性が高いのです。


 そこで、収益アパートと自宅不動産と主な金銭は親愛信託を活用して、子の名義に変えておきます。収益アパートや住まなくなった自宅不動産の管理は不動産管理業者にお願いし、必要があれば売却してもらいます。そうすることで、遠方にいる子も助かるし、不動産管理、売買仲介の仕事が発生することになります。親の施設の契約や日頃の身上監護の部分は後見人が行うので、子も安心です。後見制度と親愛信託をうまく使い、子の負担を減らして、親の老後と財産を守ることができるのです。


監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表


略歴


2015年行政書士まつおよう子法律事務所開業。

16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1026号 2020年1月1日発行 より)

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