第9回目 「判断能力がない家族がいる」
法定相続だと財産凍結 信託で使える財産に
家族の将来を考えた時の財産の管理や自分がいなくなった時に財産を承継する場合に、家族がそれぞれ自立している場合には心配はないと思いますが、親族や大切な人の中に判断能力がない人がいる場合には対策を取っておかなければ本人も周りも困ります。
たとえば、配偶者がすでに認知症の場合、相続になれば遺産分割協議ができません。認知症の配偶者に後見人をつけるか、法定相続で分けるしかありません。法定相続で分けると、認知症になっている人も財産を持つことになり、その財産はその時点で動かすことのできない凍結状態になってしまいます。判断能力がなくても財産は遺してあげたい…。しかし、そのまま渡すと本人も使えないし、その財産を使って周りがお世話することもできません。
親愛信託を使うと、判断能力のない人にも財産を承継させることができます。配偶者に財産を渡した方が相続税の計算をするときに配偶者の税額の軽減を使って節税できるケースもあります。配偶者もたくさん財産を持っていて、配偶者の財産が増えると税率が上がり、配偶者に渡さない方がいい場合もありますが、配偶者の財産が少ない場合には一旦配偶者に受益権を承継させて、そのあと、配偶者がお亡くなりになるまでに相続税の対策をすることができます。
その対策を行うのは受託者になります。受益権を持っている受益者はその財産の利益を享受するだけなので、本人の判断能力はなくても構わないのです。財産そのものの管理は、名義人となっている受託者が行います。
たとえば、ご主人がお元気な時に娘と信託契約を結びます。その後は、ご主人の信託した財産の管理は娘さんが行うので、ご主人が認知症になっても安心ですし、ご主人が亡くなった後、奥様がすでに認知症になっていたとしても受益権を渡すことができます。そうするとご主人の相続の計算をするときに、配偶者の税額の軽減を使えるのです。
親族の中に判断能力のない方がいる場合に、遺言を書くということも大切ですが、遺言ですと、名義も財産権も一緒に渡さないといけないので、判断能力のない人に財産を遺すことは難しいですが、親愛信託を使うと遺すことが可能になるのです。安心して奥様も人生の最後までを過ごすことができます。
また、名義人となる受託者の他にも協力者がいる場合には、受益者代理人になってもらい、利益を受けるだけではなく、判断能力がなくても受益者としての権利を益者代理人が行使することができるのです。
障害者の子供のため 財産を使うにも有効
認知症対策だけでなく、たとえば、障害をお持ちのお子さんの将来のためにも使えます。障害をお持ちのお子さんに判断能力がなく、その子の名前で財産を取得したり、その子の名義で銀行口座に預金をしたりすると、子供が未成年の間は、親が法定代理人なので、親が財産の管理も口座の管理もできますが、子供が成人するとその子の財産になっているので親でも手だしできなくなります。
子供の財産を管理、運用、処分するためには後見制度を利用するしかなくなります。実の親でも、子供の財産は子供の物なのです。子供の判断能力がなければその財産は凍結してしまいます。財産を判断能力のない子供名義にすることは、凍結する財産を作っているようなものなのです。その解決方法として親愛信託を使います。判断能力のない子供は利益を得るだけで、管理する人は別の人にしておくことができるので、信託財産を判断能力のない子供のために使うことができます。
受託者を誰にするのかという問題はありますが、両親が元気な間は両親のどちらか、もしくは自己信託にしておいて、将来、受託者を誰かに変更できるようにしておけばよいと思います。判断能力のない子供が一人っ子で、その子が相続してしまうと周りの親族はその子のお世話をしたくても財産が凍結状態になってしまって、後見制度を使うしかなくなります。そうならないようにご両親がご自身の財産を信託財産にしておき、将来に備えることが大切だと思います。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1025号 2019年12月1日発行 より 引用)
コメント