第54回「自己信託を使ったリースバック」

自宅を売却し金銭的メリットも生み出す
不動産を所有している場合に大切になるのは、「売り時」です。収益性が高い土地ですと、適切な人に承継していき、売却という事は考えないと思いますが、価値が上がる見込みのない土地や建物はどんどん価値が下がっていきます。建物に関しては何か手を加えない限り、一番価値が高いのは建てた時です。どのタイミングで売却するのかは購入した時から計画を立てて、一番有利な時に手放せるようにしておくと「負」の財産にはなりません。
しかし、そこまで考えて購入しないケースが大半です。収益物件などは収支計画を立て、どのくらいの利回りで何年後に修繕が必要でという事を考えるので、収支計画に失敗がなければ売却時はおおよそ見当が付くので、売るタイミングが来た時に所有者が認知症になって売却できないという事にならないように、他にもメリットのある親愛信託を使って対策をしておけば良いだけです。
不動産の中でも出口を考えていないのは自宅ではないでしょうか?昔のように同居している人が多くはなくなってきていますから、子供や親族もみんな自己所有の自宅に住んでいて、引き継ぐ人がいないのでいずれは売却しないといけないが、できる限り最後まで自宅で過ごしたいという要望が強いケースでは、親愛信託などを活用して万が一認知症になった時のために備える人が増えてきています。
ただ、親愛信託を活用しても自宅を売却するのは自分が使わなくなってからです。本人がもうこの世にはいなくなっているか、施設に入った時なので、今の時点で金銭に余裕がないなどの対策にはなりません。そして、名義が自分でなくなってしまうということに抵抗を示す人もいます。自宅を売却するという目的だけであれば通常の親愛信託で良いと思いますが、金銭的なメリットもほしいという場合は、自分が元気なうちに売却するか担保に入れてお金を借りるかのどちらかになります。
それがリースバックとリバースモーゲージになります。どちらも金銭が手元に入るものですが、大きな違いは、自分所有の不動産について、リースバックは自分のものではなくなるが借金はないのに対し、リバースモーゲージは自分が持ち続けることができるけれど借金ができるという違いです。
売却希望者と不動産業者双方に利点
自分の名義のまま自宅を持ちたいけれど借金はしたくないという場合に、自己信託を使ってリースバックします。どういうことかというと、自己所有の不動産を信託財産とする自己信託宣言をします。そして、その受益権の一部を残して、そのほかの受益権を売却します。そうすると名義は自分のまま、売却した受益権の部分の金銭が手元に入ります。
例を出すと、所有者である高齢のAさんが、自己所有の甲物件を信託財産とした自己信託宣言をします。甲物件の受益権の9割をB不動産に売却します。Aさんが自宅に住まなくなった時点で1割をB不動産に売却し、それと同時に受託者をB不動産に変更します。もし、Aさんの認知症が心配な場合は予備受託者をB不動産にしておき、Aさんの判断能力が落ちてきた時点で、Aさんと受託者を交代します。その時点で残りの1割を買い取ることもできます。
また、Aさんの生前に受益権の売買が終了しなかった時に備えて、Aさんが死亡したらB不動産に1割の受益権が承継され、その受益権の移転に際して、相続人に1割分の売却金銭を支払う信託契約にしておきます。そうすると自宅は必要がなくなった時にB不動産に名義も権利も移ることになり、Aさんにとって家賃は払う必要は出てきますが、最後まで自分の名義の自宅に住むことができますし、売却先も決まっているので、空き家の心配はありません。
B不動産のメリットは賃貸先が決まっている不動産を購入することになるのと、受益権の売却額に関しても有利な額で交渉できる点です。「通常のリースバックと変わらないが、本人の家なので大切に住んでくれる」という事もB不動産とってメリットになります。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長

略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1101号 2023年9月16日 より 引用)
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