ロシア軍のウクライナ侵攻が世界にもたらした衝撃が、日本、そして北海道の住宅不動産業界にも及びそうだ。ロシアは原油やガス、また水産品など食糧の輸出国であると同時に、地球の針葉樹林面積の6割を占める林業大国でもある。西側諸国からの経済制裁に対抗措置を打ち出す中、これまで世界に供給してきた原料・資材の流通が滞り、日本を含む需要国の混乱に拍車がかかる懸念がある。
「第2次ウッドショックが起こりかねない」―道北の木材業者社長は危機感を募らせる。業界関係者を驚かせたのが、日本時間3月10日にロシア政府が一部木材の輸出禁止を発表したことだ。「日本の商社がロシア極東の港で木材を船に積み、出航を待っていたが、禁輸が即日発効したため降ろすことを強いられたと嘆いていた」(加工業関係者)。
対象は日本など「非友好的な」48カ国・地域への輸出で、チップと丸太、単板について今年末まで禁止された。このうち丸太は、加工業育成のために数年前から政策的に縮小していて、今年1月には全面的に輸出がなくなっている。
ロシア側の発表を受け、林野庁は日本が受ける影響を見通す文書をすぐさま公表。これによると2021年の輸入のうちロシア産チップは重量ベースで1%程度(8万t)という。単板は体積ベースで82%(24・4万㎥)と高率だが、国内で流通する合板の原料は国産材が多く、ロシア産単板のシェアは約2%にすぎない。
今回の禁輸措置に限れば日本の影響は小さそうだ。対象地域のうち、木材のロシア依存度が比較的高いのはEU。ロシア側の主眼も、まずはEUに揺さぶりをかける点にあると考えられる。
だが安心してもいられない。「事態が長期化して禁輸品目が増えると日本の影響も深刻になる」と話すのは札幌の林業団体幹部だ。特に警戒するのが製材の出荷。ロシアは製材輸出量が19年時点で世界1位だからだ。実数は3336万㎥で、シェアは2割強を占める。合板でも中国、カナダに次いで3位。21年の日本の製材輸入を見ると、ロシアからは85万㎥でシェアは17%強、カナダに続く2位だった。
ロシア政府は経済制裁の選択肢のうち、より影響が大きいものは交渉カードとして温存している可能性もある。同国が世界の木材需給に与えるインパクトの大きさは歴然としている。ロシアからの木材供給がさらに滞った場合、国際的な相場上昇は避けられないだろう。
相次ぐロシアとベラルーシの森林に対する認証取り消し
不安材料は禁輸措置だけではない。持続可能性などの面から森林への認証事業を展開する国際団体が、ロシアとベラルーシの森林に対する認証を相次いで取り消している。
3月4日、スイスに本部を置くPEFCが、両国の森から産出される木材すべてを「紛争材」として認証の対象外とする決定を下した。武装集団が取引に関わった木材という位置づけだ。ドイツを本拠とするFSCも数日後、2カ国の林業収入が武力紛争につながるとして、認証の一時停止を発表した。
これによって流通できなくなるわけではないが、大手企業による両国産材の取り扱いには縮小圧力が働く。「ロシアからの禁輸があってもなくても、認証を重んじる欧米企業はロシア材からの代替を進めるのではないか」(商社関係者)。
取引の決済手段が制限される点も大きな障害になりつつある。SWIFTと呼ばれる国際決済ネットワークからロシアの一部銀行が外されたことで、代金回収の難しさから各国でロシア材の扱いが減る可能性がある。
木材以外に鉄鉱石、石炭など、鋼材、コンクリートといった建築資材に関わる輸出物も多い。本道の住宅不動産業界への影響を見通しながら、事態を注視する必要がある。
(第1072号 4月1日号 第1面より 紙面はこちら)
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