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【連載】想いを叶える親愛信託 3

第3回「親愛信託を提案することでの間接的な効果」


想いを伝える大切さ


 自分の親の財産はどのくらいあるだろう…と子供は心配します。しかし、直接は聞きにくいものです。親の財産を勝手に想像して、多ければ「相続税が心配」、少なければ「それだけしかないの?」と思ってしまいます。何の条件もなく自動的に親の財産が子供のものになるという法定相続という仕組みが、争いごとや子供の人生をダメにしてしまう原因になる事も少なくないはずです。


 子供が複数いる場合、それぞれが自分のもらえるであろう財産を皮算用し、自分の想像と違う結果になると争いのも元になります。自分の財産について、意思表示をしなかった時に初めて法定相続が登場してくるというのならわかります。でも、今の法律では、意思表示をしていても遺留分減殺請求などがあり、思い通りにはいきません。遺す方も遺される方も「~であろう」という勝手な思い込みが争いを招くもとになります。所有者が自分の口で想いを伝えることが大切だと思います。


選択肢が多いうちに


 ただ、お金のことは親子でも言いにくいという傾向があり、話し合いの機会を持つことが難しいと思われます。「親愛信託」を検討することによって、自分の気持ちをきちんと伝えることができます。自分の財産の管理の方法、承継先などを真剣に考える機会もなく、どんどん高齢になっていき、対策が限られてきてから慌てるのではなく、選択肢がたくさんあるうちに自分の希望が叶うようにしておくべきです。


 遺言で十分という人もおり、みんなで話し合った結果、遺言だけでもよいということはあります。しかし、話し合いをしないまま遺言を書くと、親子で「~であろう」が食い違っていた場合、本人はもうこの世にいないので、やり直しがききません。

 親は子供たちが仲良くわけてくれるだろう、子供側は長男だからたくさん財産がもらえるだろう、長女は可愛がられていたからたくさん財産がもらえるだろう―と勝手に思い込み、お互いの意思を確認しないまま相続になるのでもめるのです。みんなの意見交換をしたうえで、遺言を書くことが理想的です。


 ただし、遺言だと認知症対策にはなりませんし、ご本人の判断能力がなくなってしまうと書き換えられません。やはり、親愛信託の方が使い勝手がよいのです。なかなか財産の話は切り出しにくいですが、「親愛信託契約をしようと思うのだけど」といって、役割分担を決めるようなイメージになるので話が切り出しやすいのです。そこで財産を持っている人の意思確認もできるし、もしも「なぜ私はもらえる財産が少ないの?」など、疑問があればその理由を本人に聞くことができます。必ず理由があるはずです。


不動産業者側にも利点


 もう一つの間接的な効果は、名義を変えることにより後継者に自覚を持たせることができるということです。相続が起こって、「突然あなたが所有者になりました。これからしっかり不動産を管理してください」と言われても、何をすればよいのか、誰に聞けばよいのかわかりません。助言をしてほしくても、親や先代さんはもうこの世にはいません。だから、事前にきちんと勉強しておきましょうと言っても、自分のものでもないのになかなか真剣になれません。


 これが、親愛信託を使うと、まだ親や先代さんがお元気な時に後継者の名義になり管理、運用することになります。たとえば、収益不動産だと、契約で受託者になった後継者が管理、運用し、固定資産税の請求も来ます。自分のものになったのと変わらない感じになります。もちろん利益は受益者のものなので、自分のものになったわけではないのですが、登記簿の名義が自分になると気合の入り方も違ってきます。


 まだ、先代さんはお元気なので、聞きたいことは聞けますし、不動産の担当の方の引継ぎもうまくいきます。不動産業者側の立場でいうと、名義が後継者になったからといって急に取引先を変えられてしまうことがないというメリットもあります。


監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。



(第1012号 2019年6月1日発行 より引用)

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