第8回目 「不動産を所有していて、前配偶者との間に子供がいる」
離婚の考え方の変化 想定していない民法
昭和の時代に比べて、離婚に対する考え方が変わってきています。昔は1度結婚すると一生添い遂げるのが当たりまえ。離婚という選択は全くないという世の中でした。大正生まれの祖母がまだ元気な時に「今の時代はいいね。離婚しても生きていけるから。ばあちゃんも今なら間違いなく離婚している」と言っていました。
離婚すると経済的にも世間的にも生きていけない世の中だったのだと思います。今は「1度しかない人生だから気の合わない人とは早く別れて、新たな人生を歩んだ方がいい」というような考えに変わってきています。
もちろんそうではない人もたくさんいます。ただ時代の背景が、配偶者がいなくても経済的にも何とかなるし、子供がいても育てられる世の中になってきているのだと思います。どちらが良いとも言えませんが、民法の世界はまだまだおばあちゃんの時代のままです。
人が亡くなった時の財産の分け方は、結婚と離婚を繰り返して、配偶者の違う子供が何人もいることなど想定してはいません。配偶者との関係は離婚してしまえば終わります。しかし、実子はどんな状況になってもずっと子供です。
一般の方の中には「養育費をきちんと払ったから、慰謝料を払ったからもう関係ない」と本気で思っている人もいます。しかし、離婚した後に新しい家庭ができ、子供も生まれて幸せに暮らしていたとして、前配偶者との間に子供がいる場合、ご自身にもしものことがあって相続になったら、ご自身の財産をもらう権利は前配偶者との間の子供にもあります。
後にもめないために 遺言書を書いておく
自分がいなくなったあとに、自分の大切な家族が、嫌な思いや大変な思いをしないように対策を立てておかなければいけません。「前妻との間の子供とは連絡も取ってないし、そんな奴じゃないから何にも言ってこないので大丈夫」ということを言う人がいます。確かにご自身がお元気な間は何も言ってこないことが多いでしょう。
しかし、ご自身がいなくなった時、残された人にとって前妻との間の子供は全く知らない他人ですし、手続きさえすればお金が入って来るとなれば、ほとんどの人が、「もらえたら儲けもん」くらいの感覚で自分の取り分を請求してくるでしょう。
そうなるともめます。しかも大切な家族が嫌な思いをすることになります。それは避けないといけません。そのためには少なくともまず遺言を書いてください。誰に何を遺すかはご自身で決めて良いと思います。そうすると遺留分の問題は残りますが、誰が何をもらうのかが決まっていて、「それが亡くなった自分の親の意思」と思うとほとんどの人がそれに従いますし、相続手続きがスムーズです。
遺言書がなければ、全く会ったこともない子供同士や配偶者が話し合って遺産分割協議をするか、法定相続通りに分けるしかありません。金銭なら分けて終わりですが、不動産があるとその後も縁が切れずにもめごとが絶えない可能性も出てきます。そうならないように、とりあえずは遺言書を書いておいてください。
親愛信託の活用は さらに理想的な対策
もっと理想的なのは親愛信託です。離れているとはいえ前配偶者の子供にも財産を渡したい場合には受益権として渡すようにします。そして、その子が亡くなった後には今の家庭の子供や孫に戻すようにできます。家賃収入や将来不動産を売却した時の金銭を一部分けるようにしておくこともできます。遺言だとご自身が亡くなった時に金銭に換えないといけないため売却するしかありません。
しかし、信託財産にしておくと有利な時に売却することが可能になります。一旦、信託財産にしておくとその後の変更なども柔軟にすることができます。ご自身の思い通りの管理、承継ができるのです。家族関係が複雑な人は親愛信託を活用すると将来きっと良かったと思える日が来るはずです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1022号 2019年10月16日発行 より 引用)
Comments